ラクロスから想う ~友情は国家を越えられるか、40年後に残るもの~(公益社団法人 日本ラクロス協会 理事長/代表理事 佐々木 裕介)

1986年、慶應義塾大学の15名の学生が日本で初めてラクロスを始めました。

私もその創成期に関わった一人です。当時は競技人口もほとんどなく、指導者もいませんでした。グラウンドを探し、ルールを学び、仲間を集めるところから始まりました。

日本のラクロスは40年かけて全国に広がり、年間1万2,000人の会員を擁し、累計では15万人弱のコミュニティへと成長しました。そして今年、女子世界選手権大会を東京で開催し、2028年にはロサンゼルス五輪で競技が復活します。(注1)競技そのものの発展とともに、私たちが最も価値があると思うのは、ラクロスを通じた人と人との関係です。

今年、その原点とも言える出来事がありました。ジョンズ・ホプキンス大学(JHU)女子ラクロスチームの来日です。来年は男子チームも来日予定です。

JHUは日本ラクロスの普及を支えた原点です。

1987年、JHUのドン・ジマーマンヘッドコーチと4名の選手が来日し、日本にラクロスの情熱を灯しました。その後も国際親善試合、留学、ホームステイを通じて交流は続き、多くの日本人選手がボルティモアで学びました。

今回の来日は、JHU創立150周年記念事業の一環として位置付けられています。教育、スポーツ、国際交流を結ぶ重要なプロジェクトとして、ロン・ダニエルズ学長が国際親善試合を観戦するために来日しました。

JLA 2026国際親善試合パンフレット
https://www.lacrosse.gr.jp/ebook/ilfg2026/?pNo=1

JHU 150周年記念動画  
https://giving.jhu.edu/lacrosse-makes-friends-between-jhu-japan

実はラクロスは、日米ともに大学を中心に発展してきたスポーツです。アメリカでも競技の中心はNCAAです。今年のディビジョンⅠでは男子はプリンストン大学、女子はノースウェスタン大学が全米王者となりました。競技力だけでなく、学業との両立やリーダーシップ教育の場として機能しています。

日本にも大きな特徴があります。リーグ戦や大会運営の多くを学生自身が担っていることです。試合に出るだけではありません。スポンサーを集め、エンターテインメント性を付加し、広報を行い、後輩を育成し、組織を運営する。その経験を通じて、多くの若者が主体性や自治の精神を学んでいます。

この文化を支えてきた背景には二つの思想があります。

一つは、JHUに留学した新渡戸稲造の「我、太平洋の架け橋とならんや」という考え方です。国家や組織だけではなく、人と人との信頼が国際社会を支えるという思想です。

もう一つは、ラクロス発祥の地ホーデノショーニー(イロコイ)が大切にしてきた「Seven Generation Principle」です。七世代先の未来に責任を持って行動するという考え方です。また、イロコイは米加にまたがる先住民族であり、現在もパスポートを持たずにラクロス世界選手権大会に出場しています。そこには、文化は国家に優先するという哲学があります。

日本ラクロス協会初代TOPで、JHU卒のビジネスパーソンでもあったノリオ・エンドウは、ラクロスを通じて国境を越えた友情を育み、それが未来の平和につながると信じていました。その思想は、日本ラクロスの発展そのものの中に受け継がれてきました。

日本ラクロスには「Lacrosse Makes Friends」という言葉があります。

若い世代がラクロスを通じて国境を越えて友人を作り、その一人ひとりが将来、それぞれの国や地域でリーダーになった時、世界中の様々な対立や分断は少しずつ乗り越えられていく。そんな願いが込められた言葉です。

生成AIやデジタル技術が急速に発展し、多くの知識や仕事が代替される時代になりました。しかし、人と人との信頼や友情、そして長い時間をかけて築かれる関係性は、決して代替されることはありません。

世界が分断へ向かう時代だからこそ、スポーツというソフトパワーを通じて築かれる信頼や友情の価値は、むしろ高まっているように思います。

友情は国家を越えられるか。

日本ラクロスは今後、世界の中で存在感を高めていくと思います。しかし私たちが本当に残したいものは、メダルや記録だけではありません。スポーツという純粋な目的を通じて、国境や文化を越えた友情と信頼を築き、その輪を次の世代へ受け渡していくことです。

そして、ラクロスを通じて生まれる友情と信頼が、七世代先の未来を少しずつ良い方向へ変えていくことを私は信じています。

(注1)現在、日本代表は男女とも世界ランキング3~5位前後に位置しており、世界の強豪国と互角に戦うレベルまで成長しています。

【女子ラクロス世界選手権大会 公式サイト・チケット情報】
https://www.lacrosse.gr.jp/worlds/tokyo2026/

2026年6月22日 記 公益社団法人 日本ラクロス協会 理事長/代表理事 佐々木 裕介