#46 オランダの窓から世界とつながる

サッカーワールドカップ北中米大会が開催され、6月14日、日本はオランダと対戦し、引き分けスタートとなりました。

強豪オランダとの初戦で勝ち点1と好スタートをきったとの見方は多いようです。
ちょうどこのタイミングで天皇皇后両陛下がオランダを公式訪問し、オランダ国王王妃とワールドカップのオランダ戦をご一緒に観戦されたことが大変話題を呼びました。

6月17日の晩餐会での天皇陛下の挨拶には、日本とオランダの関係について1600年のオランダ船「デ・リーフデ」の漂着がスタートであったこと、鎖国政策時も長崎の出島を通じて交流が続いたこと、先の大戦での苦難の時期などを話されました。

また明治時代の日本の治水に、オランダ人の技術者、ファン・ドールン、エッシャー、デ・レイケ、ムルデルの名前をあげられその功績をたたえられました。

医学分野においても、シーボルト、ポンペ、ボードワンの名前をあげられ、日本の医学の発展に貢献されたことお話しされました。私自身はこれらオランダ人の名前はシーボルトしか承知していませんでした。

今回、オランダの方に日本の発展が随分と助けられたことをあらためて知り、両国の関係の深さをあらためて認識し感銘したところです。皆さんもオランダに行かれた方や親しみに持っている方はたくさんいらっしゃるのではないかと思います。

ファン・ドールンについてウィキペディアで調べると、オランダの土木技術者で明治時代のお雇い外国人と出てきます。コルネリス・ヨハネス・ファン・ドールンで、1837年生まれ、その後、オランダの運河の技師となり、1872年に来日し利根川と江戸川の改修、安積疎水(あさかそすい)、野蒜築港などの事業計画などに取り組み、1880年にオランダに帰国したとあります。1906年に亡くなっています。

福島県においては安積疎水の功績で長年語り継がれていて、銅像などもあるとのことです。歴史小説家の植松三十里さんの『侍たちの沃野 大久保利通最後の夢』(集英社文庫)で、ファン・ドールンの安積疎水開拓プロジェクトが取り上げられているとのことです。

また江戸幕府のときの蘭学の重要性は医学に限らず、天文学、物理学、化学などについて論をまたないところですし、オランダからの「学び」があってこそ、日本の近代化と現在の繁栄があります。

こうした日・オランダの密接な交流は、江戸幕府の鎖国の下での江戸幕府とオランダとの交易関係が基礎を作っていることは言うまでもありません。
交易関係を基盤にしてオランダが当時有していた世界の情勢に係る情報提供について、オランダと江戸幕府間でそれをどういう形態で伝達していたのか、その内容や信憑性などについてどう評価できるかなどは大変興味深いところです。

それが1641年から1859年までの200年間にわたって「風説書」という形態で年1回行われていたのです。
15年前の新書になりますが、松方冬子『オランダ風説書 「鎖国」日本に語られた世界』(中公新書:2010年)では、オランダ船が日本(出島)にくると世界の情報が日本に伝えられる、それを「風説書」という形で通詞が介在して作成し、それが長崎奉行所に提出されそして江戸に送られるというプロセスです。

江戸幕府の鎖国政策の下で、オランダへの貿易許可と引き換えに幕府は外国の情報をオランダに提供させていたものです。しかしながら、幕府は当初はカトリックに対する警戒から行い、その後は西洋の近代化の情報を求めていたという位置づけです。

一方、オランダは17世紀は世界で最も繁栄していた国でしたが、18世紀に入りイギリスに優位を奪われ凋落をはじめたなかで、この江戸幕府との貿易関係を独占的に維持、強化することが重要であったことから、情報のコントロールを様々な形でしていたことが綴られています。

松方氏は「よく聞きとれないこと、理解できなかったこと、理解できても頭から退けてしまったことが、ほとんどだった。地理的な距離、言語や文化の違い、政治制度、偏見、その他の多くのものに阻まれて、情報はうまく伝わらなかったのである。・・・それでも、なにがしかの情報にさらされ、どんなあやふやでも知識をもっているということは、何も知らないということとはまったく違う。」(200ー201頁)と論じていて、世界との窓口を通じて得た情報や情報のさわりのようなものが、日本の将来のいくすえをかろうじて支えた細い糸でありました。

皆さん、理解できないことでも頭の片隅に置いておくこと、大事だと思いませんか。

こうした日蘭交流に400年間を超える歴史があることを、私は今回の天皇陛下の挨拶から知ることができたわけです。日本の江戸幕府の下での唯一無二ともいうべき「世界とつながる細い糸」があったこと、明治時代以降の発展と成長にこうしたオランダ技術者の方々の献身的な貢献があり、海外からの技術導入で日本の発展がなされてきたことを決して忘れてはならないと思います。

日本は島国ですが、歴史的には外に向けた意識は常に持ち、開かれたオープンに外の世界との接点を大事にしてきた国、国民ではないかと思います。

ベースは一定の開放性を持ちつつ、世界とのアクセスを大事にし、様々な社会システムや経済構造、さらには文字や国語文化なども世界の様々なものを取り入れ多様な概念をわかりやすく母語に取り入れ、さらには生活に必要なものを世界の知恵を借りながらより良いものを作り出し成長してきた国です。だからこそ世界との交流は最もプライオリティをおく必要があると思います。

また、現在では世界からあらゆる情報や「学び」がリアルタイムで入ってくるという情報の即時性は当たり前で、その情報をどう咀嚼できるかという中で世界と連携しているわけです。
そうした中で世界との交流は意識的にリアルで行うことが、日本や日本人にとって大事なことにあらためて気づかされるところです。

常に様々な分野で最先端のことは何かを求めていくこと、世界の方々との交流を多面的、重層的に行うことなどが重要で、そうした交流も表面的ではないか、形式的ではないのかなど、絶えず問うことが大事だと思います。

皆さん、世界の情勢についてSNSとマスコミに依存してよしとしていませんか。今回オランダを題材に日本の世界とのつながりを考えることで、意識的に世界とつながることの大事さをより認識してもらえばと思います。

政府は、若年層の海外渡航をあと押しする意図から、この7月から、10年有効のパスポートはオンライン申請で8,900円(現在15,900円)と44%の値下げをしました。大変意義ある取り組みと思います。

2025年の日本人のパスポート保有率は19%と低く、米国5割、英国6割と大きく落差があるようです。若者層が海外にいかなくなっていること、海外にいかずとも瞬時に海外とも連絡や会議が行える環境下にあることは事実であると思いますが、現地での体験は得難いものです。

もちろん円安が海外渡航にネガティブになっていることも大きな要因であり、為替はもう少し円高であったほうが良いのも事実でしょう。オランダには、私は金融の仕事で一度アムステルダムに行ったことがあります。風光明媚な素敵な国です。いずれ、また行ってみたいとあらためて思った次第です。

皆さんから本エッセイ含めてご意見をお寄せください。

2026年6月21日 記(チュニジア戦がおわったところです)イノベーション・インテリジェンス研究所 代表 幸田博人)