#55 「つくば」から考える「研究力」

この10月23~24日、私が代表理事をつとめる「一般社団法人IMA価値共創研究会」の研修旅行で茨城県つくば市に行ってきました。

この一般社団法人は「人材教育」、「人材育成」の視点で、会員ネットワーキングと会員間情報交換の月例研究会などの活動をしています。今回は、つくば市の「独立行政法人防災科学技術研究所」、筑波大学、JAXA(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)の見学をしました。

筑波大学では、広大な大学施設と学問領域の幅広さを改めて認識し、移転から50年と少しにもかかわらず、この大学の幅広い実績と今後のポテンシャルを感じました。
学内で展示されていたノーベル賞受賞者の方、3名(朝永振一郎、江崎玲於奈、白川英樹)の業績などは大変興味深いところでした。

また、スポーツ関係者(オリンピック選手など)も数多く輩出していて、日本で最初に設立された師範学校からの歴史も感じられたところです。
1960年代に筑波研究学園都市への移転が固まり、1973年に筑波大学として移転設置され、50年を超える歩みを進めています。

草創期は並々ならぬ苦労があったことと思われますが、今回、私自身筑波大学には初めてうかがい、この大学の有している価値には大きなものがあると感じました。

筑波大学の教育・研究力を、地域や日本がどこまで活かせているかに関心を持ちました。地域における大学の存在の重要性と、つくば地域が大学だけではなく官民の研究機関、企業、行政、金融機関などと連携して「エコシステム」を広げていくことがどこまでできているか、それらが「エコシステム」的な好循環を果たして、世界に向けて発信できていくかなどに興味があるところです。

筑波研究学園都市には様々な政府関連の研究所が集結しています。

民間もあわせて160程度の研究機関があるとのことで、代表的なものとして、物質材料研究機構、高エネルギー加速器研究機構、産業技術総合研究所、国土地理院、国立環境研究所、地図と測量の科学館、国立公文書つくば分館など多数あります。

こうした多様な学問分野や研究分野がもたらす専門的な意義に加え、様々な研究者が交流して学際的な領域でのコラボレーションが広がれば素晴らしいとも思いました。

今回の見学は、防災科学技術研究所とJAXAの2か所のみでしたが、それぞれ防災という日本社会で深刻化する課題に粘り強くチャレンジしていること、また宇宙という新しいフロンティアへの果敢なチャレンジを行っていることなど日本の科学技術力の真髄の一端にもふれることができました。

海外からの学生などの見学者も多く見受けられ、海外からの注目度も一定程度あることも印象的でした。

つくばには、大学に加えて多様な政府研究機関、民間研究機関などが備わり、産官学連携的な「エコシステム」の基盤が十分にあると思います。しかしながら世界における存在感はまだまだ低いです。これをどう飛躍的に向上させていくかを取り組むべきことではないでしょうか。

日本にとっても「つくば」地域を戦略的にどう活かしていくか、強化していくかは、今後さらに取り組むべき課題ではないでしょうか。

様々な学生や研究者が集まって、学び、議論し、考察し、研究することの意義や大切さに加えて、日ごろの喧騒とは隔絶したところにあることの意味も重要です。同時に、そこにとどまってしまわずに社会とどう接続しているか、社会課題解決型と機能的にどうリンケージしているかなど、「エコシステム」的な活動に視野をさらに広げていくべきでしょう。

そういう観点では、筑波研究学園都市が大学を起点としつつ、国や民間の研究所との接続などを活かして活動していることで、更なる可能性が大いにあること、つくば地域だからこそ取り組めることのポテンシャルが強く感じられたところです。

つくば市の人口は26万8991人(2025年国勢調査速報値)で、茨城県の県庁所在地の水戸市の人口をはじめて上回ったとのこと、つくばエクスプレス(TX)効果もあり、研究学園都市の機能に加え東京圏との利便性も向上し、勢いのある都市になっていることも実感できました。

このつくば都市圏を、シリコンバレーのような日本の産官学連携の大きな拠点にしていくことや、スタートアップ創出のハブにしていくことにもっともっと注力しても良いのではないでしょうか。
「つくば」から見えたことは大学の「研究力」だけではなく、様々な官民の研究施設や産業技術の集積など、大学、官民の研究機関、企業、行政、金融機関などの「エコシステム」的な厚みをどう構築するかに、日本の競争力の一端もかかわっているともいえます。

そうした「エコシステム」的な起爆剤として機能するためには、個々人が持つ「研究力」の集積や厚みや広がりがポイントになります。
「研究力」をもたらす個人の個性について、興味深い新書で川端裕人著『研究室からはるかな旅へ』(ちくまプリマー新書、2026年)があります。
川端氏の新書、研究室をテーマにしたものについて、3冊目(「「研究室」に行ってみた。」、「科学の最前線を切りひらく!」に次ぐもの)となるものです。

今回の新書では、狭い研究室にとどまらずに、広い世界に飛び出して活動している6人の研究者を紹介しています。鳥類学者(川上和人さん)、船舶考古学、水中考古学専門家(山船晃太郎さん)、宇宙生物学者(藤島皓介さん)、中世英語・北欧後の文献学の専門家(伊藤尽さん)、分子人類学者(神澤秀明さん)、土壌研究者(藤井一至さん)の6人です。

この一人目の川上さんを著者が訪ねた場所が、つくば市の森林研究・整備機構森林総合研究所で、そこからこの新書がスタートしています。その中に川上さんは、

「ふと考えてみると、僕がやっているようなフィールド、それも無人島の生態系で、今、新たに一種絶滅しようが、それどころか島ごと沈んでも、多くの人には影響はないんです。・・・知ると、みんな喜んでくれる。面白いと思える。人間の生活の中の楽しいところっていうのは、そういう実生活の役に立たないことじゃないかと僕は思っていて。」(同書51-52頁)

などとあり、好奇心がキーワードであることが浮かび上がります。また同書の中で、伊藤尽さんは「日本の中学校や高等学校で「勉強」する教科とは全く異なる「学び」や「研究」が存在することを知って欲しいのです。」(同書205頁)、神澤秀明さんは、「学びを重ねる中で、研究とは「まだ誰も知らないことを明らかにする営み」であることを知りました。」(同書253頁)とあります。

このように「好奇心」や「面白さ」が、そうした研究の困難性を乗り越えていくことが見てとれると思います。

生成AI時代、答えを簡単に見つけにいくことが横行し、人が本来獲得すべき価値を毀損してしまう面はなくはないこと、それを避けるためにも、素朴な「好奇心」「面白さ」は大切にすることが必要です。

しかし、もはやAI時代を無視はできません。素朴な「好奇心」「面白さ」を認識しつつ、同時にAIを活用し簡単に情報を取得することも並行して行う器用さも大事だと思います。何かに格闘しながら、自分なりの答えを紆余曲折して得ていくプロセスをどう確保していくか、難しい時代に入っています。

わかりやすく言うと「研究力」は「問い」を作る力が大事で、AIは、当たり前の答えを簡単に用意する能力であると認識して、AIだけではなく、様々な人との出会いも通じて、「エコシステム」の中で、人間の好奇心が作り出す異分野の多様な問いが出会い、化学反応を起こす場になるように取り組むべきでしょう。

「つくば」を歩いて私が考えたことは、研究都市が「エコシステム」的な広がりを持てれば、そこに大きな可能性があるということです。日本の研究力は、大学のランキングや研究資金力など定量的なデータだけで測れるものではありません。

研究力は、個別の大学や官民研究機関の研究力水準や個人の研究力のみに依存するのでなく、大学、官民の研究機関、企業、行政、金融機関などの地域の「エコシステム」の広がりにかかっています。この「エコシステム」の広がりを「つくば」が持てれば、「つくば」と世界をつなげ、そして学際的な交流を深め、世界に冠たる「エコシステム」を作っていけるとも考えたとことです。

皆さんが足元懸念しているように、人間が生成AI時代を生き抜くことができるかどうか、「学び」のあり方を含め、手探りの状況です。不安や懸念を持たれている方が多いなかで、研究に「好奇心」「面白さ」を向ける人々に視点を持ちたいと思います。

生成AI時代の個人が、皆、同質性が高く、違いが見えにくい時代と表裏一体です。これを打ち破るには、「好奇心」「面白さ」にこだわるしかないでしょう。

その土台を確保するためには「研究力」の源泉である地域ごとの「エコシステム」作りに注力し、その根幹である「好奇心」を発展させていくことこそが求められます。

2026年11月1日記(実家で、小学校2年生の読書ノート見つけました)
イノベーション・インテリジェンス研究所 代表 幸田博人