足元、人口減少問題に係る興味深いデータがいくつか公表されています。
一つは5月29日、総務省からの令和7年国勢調査の人口速報集計結果の公表です。
2025年10月1日現在の日本の人口は1億2305万人で、前回の国勢調査(2020年)と比べて309万人減少し、2.5%の減少率となっています。
1990年の人口が1億2361万人でしたので、35年前の人口に戻ったことになります。
人口のピークは2010年の1億2805万人でした。
人口のピークアウトと減少が加速化していることが明確になっています。
世界の中で見るとインドが第1位で14億6400万人、第2位中国14億1600万人、第3位アメリカ3億4700万人と続きます。
日本は第11位のメキシコ1億3200万人に次ぐ第12位となります。
すでに人口面では中位国的な位置づけに入っています。日本は成長国というよりは成熟した国としての位置づけになったということでしょう。
都道府県データも見ると、東京都が1424万人、神奈川県が919万人、大阪府が876万人で、人口が少ないところは、鳥取県52万人、島根県62万人、高知県64万人です。
100万人以下の都道府県は12県(2020年調査時は10県)にも及びます。
2020年から2025年で人口が増加したのは、東京都と沖縄県のみです。その中で都市で見ると、21大都市のうち8市(増加率の大きいところから、福岡、東京、千葉、大阪、さいたま、川崎、名古屋、仙台)です。
横浜、札幌、神戸などは減少しています。都市への集中が加速していて、また都市間格差も広がっているということが見て取れます。
皆様の地元の人口状況はどんな状況でしょうか。
思った以上に人口減少の局面に入ってきたと感じられる方も増えているのではないでしょうか。皆さん自身でご自身の地元の人口データを確認してみませんか。
そこに発見があり、また個々人としての示唆が得られるかもしれません。
個々人の認識を社会の変化につなげていくことも必要だと思います。
今回の国勢調査の回答率は、インターネットと郵送で80%と微妙なゾーンに入っています。
インターネット回答は47%と中心になりつつあります。
統計的な正確性について岐路にきています。
「「最も重要な統計」の精度が落ちれば国の輪郭もぼやける。あらゆる政策の土台が揺らぐ静かな危機だ。」(日本経済新聞2026年5月30日朝刊3面)との見方もあり、こうした国の基本的な調査について、今後正確性をどう担保できるか大事なところです。
なぜ人口減少がこれほどの大問題になるのでしょうか。
日本の経済力との関係が強いとの認識があるからです。
日本のGDPは1989年は約3.1兆ドルで世界2位、現在(2024年)は約4.0兆ドルで世界4位です。
1989年の日本の人口は1億2294万人、世界で7位でした。
ここでポイントになるのは、一人あたりのGDPは1989年は約25,000ドルで7位でしたので、人口が一定規模あれば、1人あたりのGDPが高い水準にあることで、日本の経済力の大きな規模が確保されていました。
しかし現在、人口は減少し、1人あたりのGDPが2024年には32,000ドルで39位ということで、このまま低迷が続けば日本の経済力はさらに低下していくことが明らかです。
もちろん、今後競争力や付加価値をつけ、1人あたりのGDPを上げていけばよいのですが、なかなか大変です。
成長に向けた官民一体的な取り組みがさらに重要ですが、同時にGDPが上位国でなくとも日本が世界に貢献していくための社会の基盤システム改革に取り組むタイミングにきていると思います。
もう一つのデータは、6月3日に厚生労働書から公表された2025年の人口動態統計(概数)です。出生数は、67万1236人で、10年連続過去最少を記録しています。
政府、自治体では様々な少子化対策を組んでいますが、なかなか回復にはつながっていません。この出生数は、国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した将来中位推計の2040年の予測数値なので、予測より大分早いです。
そろそろボトムとの見方もありますが、人口減少には歯止めがかからない状況です。
民間ベースで発足した「未来を選択する会議」(2025年10月設立)が、2025年に翁百合さんを委員長として『人口問題白書』を発刊しています。
こうした白書は政府の「人口白書」(1959年、1974年)以来、50年ぶりの取り組みで、その白書の内容の網羅性と体系性は大変貴重なアウトプットです。
人口動向と関連政策をデータとファクトでチェックした第1部、第2部は、学術研究、文献の紹介と意識調査、第3部は、有識者の方々からの意見から構成されていて、全体で340頁と膨大なものです。
この白書は、今後の人口減少問題を考える出発点となる貴重なものです。今回の「エッセイ」では本白書の内容までは立ち入りませんが、こうした基礎資料がはじめて用意されたことは大変な意義があると考えています。
日本の歴史の中で人口がどう増加してきたか、あるいは人口が減少したことはあるのかなどは、2000年の歴史の中で正確に把握できないにしても、概要は知っておきたいところです。
歴史上の出来事や人物は我々は一定の理解はしているものの、その時の社会構造がどうであったのか、ベースとしての人口はどうだったのか、平均年齢はどうなのかなどの社会の基礎的な基盤情報の理解は十分には持ち合わせていないと思います。
歴史人口学者である鬼頭宏氏によると(白波瀬佐和子編『東大塾 これからの日本の人口と社会』(東京大学出版会:2019年)の第1講「歴史と人口-歴史人口学からみる人口減少社会」鬼頭宏)、縄文初期から現代までの人口推計があります。
それによると、縄文時代早期は2万人、奈良時代から平安時代に600万人から700万人、1600年の人口は1700万人(斎藤修さん集計)、徳川吉宗の時代、18世紀のはじめが3200万人まで増加で、その後、幕末以降、増加ということです。
こうした人口規模が理解できると、その時々の時代の出来事と社会全体のイメージがリンクしてきます。鬼頭氏は、「縄文時代後半、平安から鎌倉、江戸時代中期、そして21世紀と、人口の停滞期を考えてみると、いずれもそれまでの社会システムが行き詰まった時代、とみていいのではないかと思います。」(同書18頁)と言っています。
現代も社会システムを変えていくことが必要になっていることは大事な視点だと思います。
社会システムの新しいあり方は、世代間格差問題、所得格差問題、将来の社会保障のあり方、税金と給付のあり方など財政的な観点に加え、生活や働き方、ウェルビーイング、イノベーションへの取り組み、教育システム、地方と東京のあり方など、抜本的な社会システムの改革を意識した取り組みを進めていくことかと思います。
こうした長期的な人口動態を見ていくと、今のタイミングで四苦八苦しながら足元対策で人口減少問題に取り組んでいることは必要なことですが、一方で、いずれ次の時代の社会システムの下で、人口が回復することが期待できるという循環的な考え方を楽観的に持って長期的な社会システムの改革に取り組むことも大事と思います。
こうした歴史的な人口推計を成り立たせているのは、歴史人口学という分野が戦後発展してきたことでもたらされています。著名な歴史人口学者の速水融『歴史人口学事始めー記録と記憶の90年』(ちくま新書:2020年)を紐解くと、当人の学問人生の回顧録として、生い立ちから終戦、アカデミズムへの道に入り、その後の歴史人口学との出会いなどを90年の人生とともに語っています。
歴史人口学との出会いは、海外留学中に「教区簿冊」を用いた人口研究と出会い、その後日本に戻り、日本の「宗門改帳」を収集し統計的な手法も活用しながら整理することなど、速水氏の90年の学問人生を回顧したものです。こうした先人の苦闘があってこそ、今把握できている歴史人口の変遷が語れることは大変素晴らしいことです。
こうしてみていくと、人口減少は日本の社会システムを変えていくための一つのチャンスです。人口減少を食い止めることに躍起になりすぎて、その対策を中心とした取り組みに偏るのではなく、日本の社会システムを変えていく観点により集中して、いずれ人口は回復するという循環的なサイクルも意識して、長期的な視点での取り組みに切り替えていくことこそが大事ではないかと思います。
そのためにも、日本の競争力を強化し、付加価値あるサービスや商品の提供に注力し、ベースとしての「学び」や教育、さらには研究面で、人材育成に注力するなどに取り組んでいくことが大切です。
個々人の生き方が有意義になっていく取り組みをしていければと考えています。人口減少を悲観的に見すぎずに、社会システムの改革などの取り組みにつなげていくことも大事だと思います。
皆さんから本エッセイ含めて、ご意見をお寄せください。
2026年6月7日記(6月は京都発祥の和菓子「水無月」楽しみです)イノベーション・インテリジェンス研究所 代表 幸田博人)
